ERPにAI機能を組み込む動きが加速している。一方で導入コストへの懸念から、導入による具体的な成果を知りたいという企業の声がある。AI活用を見せかけで終わらせないために、知っておくべきERPとAI機能の進展とは。
人工知能(AI)技術の活用がさまざまな業界で広がりつつある中、ERP(統合業務システム)にAI機能を搭載するERPベンダーが登場している。一方でユーザー企業の中には、AI機能に興味はあるものの、導入したことで得られる成果が見えづらいため、まずはAI機能を使ったことで得られる実績を確認したいという声がある。AIを搭載したERPの動向と導入のメリットは。
「デジタルトランスフォーメーション」(DX)とERPに関するコンサルティング企業Panorama Consulting Groupの年次調査レポート「The 2025 ERP Report」によると、AI機能を本格導入もしくは段階的に導入している企業は、2024年の53.4%から72.6%に増加した。同調査は、2024年1月から2025年1月にかけて、172人にアンケート調査を実施した結果に基づく。
「ユーザー企業はERPベンダーのAI戦略と、AI機能がどのように業務プロセスを自動化、効率化するのかを理解したいと考えている」。Panorama Consulting Groupのクライアントサービス部門シニアマネジャーであるクリス・デボルト氏はそう話す。
ERPコンサルティング会社ERP Advisors Groupの創業者兼マネージングプリンシパルであるショーン・ウィンドル氏によると、AI機能を搭載したERPの機能に関する企業からの問い合わせは増加している。
ウィンドル氏は、Googleの大規模言語モデル(LLM)「Gemini」やMeta PlatformsのLLM「Llama」の動向を把握しているユーザー企業が、「AI機能はどう役立つのか」という具体的な情報を求め始めていると説明する。
その一例が、SAPの従来型ERPを使用している大手石油サービス企業だ。ウィンドル氏によるとこの企業は、日々のチケット管理や請求書の処理をはじめとした現場業務に、AI技術がどう役立つのかをERPベンダーが実証できない限り、AI技術を導入しないと明言している。
「この企業の各拠点には、請求書の内容を確認する担当者が5人もいる。請求書を目視で確認してから送付しているにもかかわらず、誤りが発生して営業活動に影響を与えている。こうしたプロセスこそ自動化すべきだ」(ウィンドル氏)
ウィンドル氏によると、AI機能を搭載するERPが登場してきたことは、特に中小企業にとって恩恵になっている。従来は費用がかかりがちだったRPA(ロボティックプロセスオートメーション)などの自動化技術を、より手頃な価格で導入しやすくなりつつあるためだ。
RPAや機械学習は、RPAツールベンダーUiPathのサービスを導入できる大企業だけが利用できると考えられていたとウィンドル氏は説明する。しかし、AI技術を使ってこれらを利用できるのであれば、ユーザー企業はERPのアップグレードに前向きになると同氏は指摘する。
「ユーザー企業は、ERPにおけるAI技術への投資、研究開発、導入計画を理解したいと考えている。同時に、現時点ではERPにおけるAI技術の活用はまだ初期段階にあるという認識も持っている」とデボルト氏は言う。
デボルト氏は、ERPにおけるAI機能が、業務プロセスの改善だけではなく、ERP導入プロセスにも役立つと考える。一部のソフトウェアベンダーは、AI技術を使って「このユーザー企業にはどのようなERPの設定やカスタマイズが必要か」「発注処理にはどのような条件があるか」といった条件を自動で調べるツールを用意している。これによって、ユーザー企業はERPの導入前から自社に合った設定を把握しやすくなる。
ERPベンダーUnit4のCTO(最高技術責任者)、クラウス・イェプセン氏によると、ERPにおけるAI機能は限られており、ユーザー企業における導入も初期段階にある。しかし、AI機能を使った効率性向上などのメリットをユーザー企業が実感できれば、利用企業数は増加するとみる。
Unit4は、主に中小企業向けにERPを提供するベンダーだ。同社のSaaS(Software as a Service)型ERP「Unit4 ERPx」は、請求書処理などの手作業を削減することを目的としたAI機能を搭載する。
イェプセン氏によると、業務プロセスの自動化による効率向上が、AI導入の推進力になる。
「2025年に突然AI機能を搭載したERPの利用が広がるとは思わない。まだ話題が先行している状態だ」と前置きした上で、イェプセン氏は次のように話す。「AI機能の導入は段階的に少しずつ進んでおり、現状は初期段階として、小規模な課題や限られたデータを基にした取り組みを進め、成果を出している段階だ」
次の段階では、機械学習とLLMがERPデータを参照し、エンドユーザーがクエリ(質問や指示)を基にデータから洞察を得られるようになるとイェプセン氏は説明する。
クラウドERPベンダーThe Danville Group(Rootstock Softwareの名称で事業展開)のCTO、ロバート・ロスタミザーデ氏も、ユーザー企業のAI機能への関心は高く、具体的な成果を求めていると指摘する。顧客管理システム「Salesforce」をベースとするRootstockのクラウドERPは、主に中小規模の製造業企業をターゲットとしている。
「ユーザー企業はAI機能導入のための予算を確保しており、AI機能を活用するための施策が必要だと認識している。その上で、ERPの専門家である私たちにAI機能の具体的な活用方法を示してほしいと考えている」。ロスタミザーデ氏はこう説明する。「AI技術は至る所で話題になっているが、企業の公式WebサイトにAIチャットbotを設置するだけでは見せかけに過ぎない。ユーザー企業が求めているのはそういったものではない」(同氏)
ロスタミザーデ氏によると、RootstockのERPはSalesforceに構築されている。そのため、Salesforceが提供する、ローコード(最低限のソースコード記述)でAIエージェントを構築できるツール「Agentforce」を活用できる。Agentforceのツールやセキュリティ、データプライバシー機能とRootstockのERPデータを組み合わせることで、ユーザー企業が求める価値を提供できると同氏は説明する。
「リードタイムの予測、生産工程におけるボトルネックの事前把握、資材やリソースの正確な配分など、製造業における予測的AIと生成AIの両方に注目している」。ロスタミザーデ氏はERPとAIに関する展望をこのように説明する。予測的AIは過去のデータから将来の結果を予測するAI技術、生成AIは画像やテキストを自動生成するAI技術だ。「さらに一歩進めば、生成AIを使ってMRP(資材所要量計画)アプリケーションと会話形式でやりとりし、生産工程のシナリオや生産プロセスのモデルについて質問することも可能になる。これがERPとAI技術の未来だ」(同氏)
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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